🔍 古事記が面白おかしく読める訳


昔話 海幸彦と山幸彦
今回は『古事記』の作者の相棒  稗田阿礼ひえだのあれ が、いろいろな土地で、口伝伝承を聞いて回っていたときの話。 今まで彼が聞いた話は……   【あらすじ】
・ いろいろあって高天原に神々が生まれた ・ イザナギ&イザナミの子に天照大神&素戔嗚尊がいた ・ 天照大神が岩戸の奥に隠れて大騒ぎ〜解決 ・ 素戔嗚尊がやまたのおろちを倒して、当地の英雄 ・ 大国主命白兎助けたら、爆死した。でも蘇った!

各地で、こんな話を聞いて回っていた。そして今回聞いた、新たな話は?

原文では、『邇邇芸命』のあとに、『海幸彦と山幸彦』の順ですが、スッと通る構成にするため、掲載順は入れ替えてます。

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📓 古事記上巻-1 昔話 海幸彦と山幸彦

『古事記』上巻(釣り針をめぐる恨み節) 「従正五位上」官位 太 安万侶おおの やすまろ (奈良時代)


んん? なんだいおめえさん、この辺じゃ見ねえ顔じゃねーか。 この土地に伝わる昔話が聞きたいって? なんだい、畑泥棒かと思って身構えちまったじゃねーか! じゃあよ、今から話すから耳かっぽじってよーく聞いてくれよ。   ・    ・  まずは登場人物二人の整理からだ!

『海の兄』……火照命ほてりのみこと 『山の弟』……火遠理命ほおりのみこと

えーとな、昔々の話だぜ。 火照命ほてりのみこと 、こいつは兄貴で、海の漁師、海佐知毘古うみさちひこ って名で通ってんだ。 魚をガッツリ捕まえるのが得意だったんだとよ。 で、その弟の火遠理命ほおりのみことって奴は、山佐知毘古やまさちひこって言ってな、山の狩人、獣を狩るのが得意だったって話さ。 わけわかんねえ名前だからよ、火照命ほてりのみことは『海の兄貴』、火遠理命ほおりのみことは『山の弟』って呼ぶぜ。 ある日よ、『山の弟』が『海の兄貴』に言ったんだ。 「おい兄貴、ちょっくら仕事交換してみねぇか?」ってな。 最初は「何言ってんだおめえ!」って断られたけどよ、弟がごねるからよ、結局はしぶしぶ交換することになったってわけよ。 でもよ、『山の弟』が海に出てみても、魚なんて一匹も釣れやしねぇ。 おまけに手が滑って、釣り針まで海にドボンしちまってよ。 間の悪いことに、そこに『海の兄貴』が「やっぱおめえ、釣り針返せよ」って戻ってきて、 「山の仕事は山の仕事、海の仕事は海の仕事。やっぱ元の方がいいわ」とか言われちまった。 ヤベえ! 何て言やいいんだよ。無くしちまったなんて言えねえ。 ドジな弟は仕方なくこう言ったのさ。 「兄貴、すまねえ。兄貴の釣り針無くしちまった」 兄貴、絶句さ! 何度謝っても兄貴は聞かねえ。 「おめえ、斧を泉にドボンしたらよ、女神様が現れて『金の斧』になった話あるじゃねーか! 『金の釣り針』にして返せよ!」 とか無茶言ってゴネるわけよ。 そこで弟のほうもよ、自分の剣をバッキバキに砕いて500本の釣り針を作ったんだけどよ、兄貴はそれを受け取らねぇ。 1000本作ってもダメだった。「あの釣り針がよかったんだ」とか子どもみたいにごねてやがる。 困り果てた『山の弟』が海辺で泣いてるとよ、塩椎神しおつちのかみってのが現れて、「旦那! そんなとこで何泣いてんのさ?」ってきくわけよ。 「兄貴の釣り針無くしちまって、代わりに作った釣り針も受け取ってもらえねぇ」って答えると、塩椎神しおつちのかみが「それならいい案がありますぜ! 旦那!」って言ってな、 「旦那! 今からこの舟を流すから、ちょっと行ってみるといいですぜ。その道を進むと魚の鱗で作られた綿津見神わたつみのかみの宮殿が見えるんですわ。その門に着いたら、井戸のそばの香木に座って待っててみな。海の神の娘が話しかけてくるからさ」って、怪しげな予言めいたことをぬかしやがった。   ・    ・  ドジな弟はその話に見事に乗っかっちまってよ、聞いた通りに香木に座ってたんだ。 そしたらな、本当に海の神の娘、豊玉毘賣とよたまひめの従者が井戸に水を汲みに現れたってんだから驚きよ。 従者は井戸に光るもんを見て、そのまま上を見上げると、そこにはむさ苦しい男がいるじゃねぇか。 『山の弟』は従者に水をくれって頼んで、従者は脅されたと思ったのか、言われるまま水を玉の器に注いだんだ。 でもな、弟は水を飲まずに、首飾りの玉のほうを口に含んで、その玉を器に入れちまった。で、従者は玉を器から外せなくなっちまった。 恩を仇で返す弟よ。この先、ドえれえことになっちまうんじゃねーか? 従者はこのことを豊玉毘賣とよたまひめにチクりやがった。 豊玉毘賣とよたまひめは「外に誰かおるのか?」って聞いて、従者が「井戸の上の香木に座る男がいて、水を求めたんだけど、唾を含んだ汚え玉を器に入れやがったから、外せなくなっちまった」って答えたんだ。 豊玉毘賣とよたまひめは興味津々で外に出て、外の世界から来た『山の弟』を見て、すぐに惚れちまったんだよ。   ・    ・  姫は親父である海の神に「門の外に美しい人がおる」って言ったんだってよ。 海の神は……そうだな、こいつのアダ名はポセイドンってことにしよう。 ポセイドンは外に出て『山の弟』を見てよ、「お前さんは天津日高あまつひだかの子、虚空津日高うつくしうつひだかではないか!」と言って、どこの誰だか知らねえ男を一発で見破っちまった。 ポセイドンは『山の弟』を宮内に招き入れてよ、豪華な座布団を敷いてやったうえに、うめえ食事まで用意してよ、いったん恩を売った後に「娘の豊玉毘賣とよたまひめと結婚しろ」って迫ったんだ。 言わんこっちゃねえ。 てめえんとこの次郎兵衛は、結局3年、その国に監禁よ。 でもよ、さすがに『山の弟』も陸が恋しい。山が恋しい。昔のことを思い出してよ、深~いため息をついてたって話だ。 悪いことは重なるモノでよ、それを姫に見られちまった。姫は早速親父に告げ口しやがった。 ポセイドンに理由を尋ねられて、まさか本当のことは言えねえじゃねえか。 だからよ、あの時の釣り針の話をしたのさ。 そしたらよ、話がどんどんデカくなっちまって、ポセイドンが海の魚たちをみんな集めて、徹底的に釣り針を探させたって話だ。 そしたらよ、赤い海鯽魚あかうみぼらが喉に釣り針が刺さって苦しんでやがるって話が入ってきた。 ……釣針は赤い魚っ子から抜かれて返ってきた。 綿津見神わたつみのかみがそいつに、「この釣り針を兄に渡すときには、『この釣り針は淤煩鉤おわずかぎ須須鉤すすかぎ貧鉤まずしかぎ宇流鉤うるかぎ』と言って、後ろ手で渡しすことだ」と教えたそうだ。 これってあれだろ? 兄貴への呪いのかけ方だろ? それからよ「兄貴が高田を作ったら、お前は低田を作れ。兄貴が低田を作ったら、お前は高田を作れ。そうすれば、俺が水を操るから、3年で兄貴は貧しくなるだろう。兄貴が恨みからこっちを攻撃してきたら、塩満珠しおみつたまを出して溺れさせろ。悲しみを訴えてきたら、塩乾珠しおひでたまで救ってやれ」と言って、その珠を2つやったらしいぜ。  ・   ・  話はそこで終わらねえ。 海の神の姫サンがよ、「私は妊娠してる。もうすぐ出産する」って言ったんだけどよ、 姫サン「天の神の子は海で生まれるべきじゃない」って、陸に上がることにしたんだよ。 そこで、海辺に「鵜の羽」の屋根の産屋を建ててたんだけど、出産の苦しみで、まだ未完成の産屋に入っちまった。 それで出産する時、彼女は『山の弟』に「私は自分の国の姿になって出産するから、見ちゃいや〜ん」と言ったんだ。 見るなと言われたら、見たくなるのが人のサガってやつじゃねーか。 そんなん、守る男なんてどこにもいねぇ。 案の定、奴っ子さんは好奇心に負けちまって、棒をオッ立てて、窓からこっそり覗いたんだとよ。 兄ちゃん、ナニ見たと思うよ? 何かしら、秘密のものが見れたと思うじゃねーか。 そしたらよ、そこでは姉ちゃんが巨大な蛇に変身してたんだってよ。 兄ちゃん、ビックリして逃げ出しちまった。 その音に気づいたヘビ姉ちゃんは、子供を産んだ後に恨みがましく、「私は海に戻るけど、あなたが私を覗いたのは犯罪行為だ」と言って、海に逃げ帰っちまったんだとよ。 で、彼女が産んだ子供の名前は 「天津日高日子波限建鵜葺草葺不合命あまつひだかのひこほさかたけうぶさのやぶさふせずのみこと」 って名付けられたんだ。 何の呪文だよ! 般若心経か? ただよ、それからしばらくすると『山の弟』も豊玉毘賣とよたまひめを懐かしく思って、歌を贈ったんだとよ。 『山の弟』は高千穂宮で580歳まで生きて、その墓は高千穂山(宮崎県西臼杵郡高千穂町)の西にあるって話だ。 580年……。突っ込みどころ満載の話だな。

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